冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「昨日の休暇はどうしていた?」
「え、は、はいっ、ゆっくりと過ごさせていただきました……っ」

 二度目になる会話は、本当に他愛のない世間話をするのに適した当たり障りのないものだ。
 なのに、なぜ一国の王族たる王子が、使用人ごときの休暇を知っているのか、フィリーナはかすかな疑問を抱いた。

「それは本当に?」
「え……っ?」

 自分の疑問は解決されることなく、グレイスはさらなる問いを被せてきた。
 しかも、フィリーナの心臓をぎくりと飛び上がらせるように、碧い瞳を細めて。

「あんなに急いで帰っていたのに? ゆっくり過ごしていたようには思えなかったが」

 見られていたのだ。
 昨日あの場を慌てて去ったフィリーナの姿を。
 高貴な人との会話に浮かれていたフィリーナの心臓は、瞬く間に凍り付いた。
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