冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「私と君の関係についてだ。……いや、今はもう、そのような話などどうでもいい」
「そのご様子だと、いろいろとご存じのようですわね」

 怒気を孕んだディオンの声に怖じ気づくことなく、レティシアはあくまでもゆったりと柔らかな声で話される。

「私と君では世継ぎを作ることはできない。元々王位継承権はグレイスの方が上位にある。それを知った今、私は自分の大義を捨て、グレイスにそのすべてを託そうと思っていた。
 バルト国も、ヴィエンツェも、そして、君も……」

 簡単に言葉にされているけれど、ディオンの葛藤もグレイスの苦しみも、それぞれの色んな思いが交錯して最善を導き出した道だ。
 それなのに、二人の王子の思いはどこ吹く風のように聞いている雰囲気は、あの夜垣間見たレティシアの高飛車さを色濃く見せた。

「レティシア、君は……グレイスを愛していたのではなかったのか? グレイスとともに生きていきたいがために、邪魔な私を排除しようとしたのではなかったのか」
「レティシア、さあこっちへ」

 ディオンの言葉を聞いてもなお、まだ望みを捨てないグレイスの手は、寄り添い合う二人に向けられたままだ。
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