冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「レティ、はっきり申してさし上げないとわからない者もいるようだ」

 クロードは、見せつけるようにレティシアの耳元をくすぐりながら話しをする。

「レティシア……ッ」
「グレイス。お前との結婚が、彼女の思惑のすべてではないようだ」

 レティシアの心を呼び止めようとするグレイスを、ディオンは毅然と制した。

「さすがはディオン様。お話が早くていらっしゃいますわ」

 くすりとした笑いが零されると、フィリーナの中の我慢ならない思いが、足を一歩前に踏み出させた。

「お、お言葉ですが、レティシア様っ!」

 自分でも思いがけない突然のことに、そこにいる全員が声を上げたフィリーナを振り返ってきた。
 高貴な方々の一斉の視線に圧倒されつつも、開いてしまった口は自分でも止めることはできなかった。
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