冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「ディオン様、何をなさるおつもりですか!?」

 階段を足早に駆け下りるディオンに追いつけないまま、過った不安を投げかける。

「国王の首を取る」

 当たってほしくない予想が当たってしまって、返された答えにぞくりと身震いした。

「い、いけませんっ、ディオン様!」

 これまで不屈の平和を築き上げこられたディオンらしからぬ判断。
 力で治めるなど、誰かを傷つけなければならないようなら、ヴィエンツェの末路と同じ道を辿ってしまうバルト国の未来が目に浮かぶようだった。
 塔の入り口に着いたディオンは、降りてくるフィリーナを待つかのように扉を開けずに立ち止まる。
 追いついたフィリーナに振り返る漆黒の瞳に、上がる息を飲み込んだ。

「心配するな。あの国王のことだ。切っ先を向けただけで両手を挙げることは目に見えている」
「ディオン様……」
「ただ……」

 歩み寄ったフィリーナの腕を引き、ディオンは華奢な身体を強く抱きしめた。
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