冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 ――もしかしたら、こうやって抱きしめていただけるのも、最後なのかもしれない……

 元の通りディオンが王位を継ぐことになるのなら、フィリーナなんかでは到底手の届かない場所へと戻って行くことになる。

 ――それでも……
 ディオン様、私はずっとディオン様を想っております。

 ふ、と口唇の温かさが遠ざかる。
 漆黒の瞳と視線を合わせると、もう一度だけ強く抱きしめられたあと、ディオンはフィリーナを抱く腕をそっと解いた。




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