冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 碧い瞳が見つめる先には、クロードに守られるレティシアの姿。
 少し青ざめているように見えた表情に、想像したくない悪い予想がひやりと背筋を舐めた。

「そうか……だったら、兄さんがレティシアと結婚する意味は完全になくなったわけだ。王位を捨てる理由も、なくなった……」

 まろやかな声に変わりはないのに、そのどこにも気力が見えない。

「そして僕は、いよいよお払い箱と言うわけだね」
「グレイス様……っ、なりません……!」

 様子のおかしいグレイスを、ダウリスが制する。
 構わずふらりと歩みを進めるグレイスへ、ダウリスが一瞬視線を移した瞬間。
 その隙をついて、クロードがダウリス目がけて切りかかってくる。
 耳を裂くような音で、再び二つの剣が交わる。
 咄嗟にクロードの剣を受けたダウリスは、わずかに劣勢のように見えた。

「レティシア!! 逃げろッ!!」

 叫んだのはクロードだ。
 震えているのか頷いたのか、レティシアがはっとしたように駆け出した。
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