冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*
今はめそめそと泣いている場合ではない。
ただ泣いていても、ディオンの傷が治るはずはないのだ。
塔の外に出ると、王宮の前に荷車が数台並んでいるのが見えた。
そこでは、ディオンの指示通り、使用人の人達が王宮の中から出してきた食糧を積み込んでいた。
急いで駆け寄ると、先ほど国王に寄り添っていた金髪の女性が、フィリーナを見るなり顔を青ざめさせた。
「だっ、大丈夫でございますか!? どこかお怪我を⁉」
食糧が入っているらしい箱を足元に落としてしまうほど驚く女性は、なぜか心配をしてくれる。
けれどすぐに、見下ろしたスカートの赤黒いまだら模様がそう勘違いさせたようだとわかった。
「いえ、わたくしではございません。ディオン王子が、剣に倒れられました。
お城に、……いえ、町にお医者様は居ますか?」
食糧を運んでいるのは、甲冑を着た門兵と身なりの小奇麗な執事らしき人。
見るからに、医者と呼べるような人は見当たらない。
少しばかり動揺していたようだったけれど、女性は何か思いついたようにフィリーナを見つめて頷いた。
今はめそめそと泣いている場合ではない。
ただ泣いていても、ディオンの傷が治るはずはないのだ。
塔の外に出ると、王宮の前に荷車が数台並んでいるのが見えた。
そこでは、ディオンの指示通り、使用人の人達が王宮の中から出してきた食糧を積み込んでいた。
急いで駆け寄ると、先ほど国王に寄り添っていた金髪の女性が、フィリーナを見るなり顔を青ざめさせた。
「だっ、大丈夫でございますか!? どこかお怪我を⁉」
食糧が入っているらしい箱を足元に落としてしまうほど驚く女性は、なぜか心配をしてくれる。
けれどすぐに、見下ろしたスカートの赤黒いまだら模様がそう勘違いさせたようだとわかった。
「いえ、わたくしではございません。ディオン王子が、剣に倒れられました。
お城に、……いえ、町にお医者様は居ますか?」
食糧を運んでいるのは、甲冑を着た門兵と身なりの小奇麗な執事らしき人。
見るからに、医者と呼べるような人は見当たらない。
少しばかり動揺していたようだったけれど、女性は何か思いついたようにフィリーナを見つめて頷いた。