冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 ――ああ、神様……
 この国と、大切な王太子を見捨てずにいてくださって、ありがとうございます……!

 荷車から飛び降り、男性の元へと歩み寄ると、真剣な声音が切迫した状況を察してくれた。

「ディオン様のご容態は」
「今は意識がありません。出血が酷く……大きめの布で止血をしておりますが……」
「すぐに案内してくれ」
「はい! ありがとうございます!!」

 食糧を求めて出てきていた人達は、いつの間にか何か手伝えることはないかと言い出してくれていた。
 医者を名乗る男性が、家に手術の道具があることを告げると、それを取りに行くと言う若い男性が数人、大急ぎで駆け出してくれた。

 ――この国はまだ、大丈夫。
 絶対に、ディオン様の下で、素晴らしく繁栄していくに違いないわ。

 そう思わせるほどの団結力を、フィリーナは今自分の目で、たしかに見ることができたのだから。



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