冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
14章 光
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 大きくて綺麗な掌。
 頬をすっぽりと包み、優しく擦ってくれる。
 両手で包み込んでも握り返してはくれないけれど、触れてくれた感触はまだ色褪せることなく残っている。

 柔らかな風が部屋に入ってくる。
 撫でられた天蓋の布が、静かに揺れた。
 真っ白な寝台に横たわるディオンは、いまだ目を閉じたまま。
 一命は取り留めたけれど、いつ目を覚ますのかは、国一の名医でもわからないそうだ。

 包んだ手の甲をそっと擦る。
 抱きしめてくれる強さを思い出して、胸が心地よく啼いた。

 熱が高い。
 手から伝わる身体の熱さ。
 眠っているディオンの呼吸はわずかに荒く、たくさんの汗をかいていた。

「ディオン様……

 またその美しい瞳に、わたくしを映してください。
 その澄んだ声で、わたくしを呼んでください。
 大義を背負い、お国のためにすべてを捧げる身体で……わたくしを包んでくださいませ」

 呟く声に、ぽろりと涙が零れる。
 一滴だけでぐっと堪えると、包んでいた掌をそっと寝台に下ろした。
 泣いても、ディオンが目覚める特効薬になどはならない。
 吹き出している汗を拭き、「水を替えてきますね」と声を掛けてその場を離れた。

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