冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 寝台に横たわる凛々しくも儚い姿を思い出してしまい、目元が潤む。
 グレイスに見せないようにとうつむくと、長い指が顎に掛けられ、顔を上げさせられた。

「泣くほど心配か? 国のことが」

 碧い瞳が心を暴くように覗き込んでくる。

「だいたいお前は使用人のくせに色々と首を突っ込みすぎる。まあ元々は僕が引き込んだのが最初だったんだけれど。
 それにしても、ずかずかと主の心に無遠慮に入ってくる下女なんて聞いたことがない」
「こ、心、でございますか……?」

 ぱちぱちと瞬くと、ぐっと何かを飲み込むグレイスは、碧い瞳を逸らして手を離した。

 無遠慮と言われるならそうかもしれない。
 心配なのは国のことだけではなかったから。

「グレイス様のお心を、心配してはいけませんか?」

 ディオンとも約束をした。
 グレイスの心は、自分が癒してさし上げると。
 フィリーナになら、心を許してくれるだろうとも言っていた。
< 301 / 365 >

この作品をシェア

pagetop