冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 薔薇園の奥にある丸い屋根の日よけの下。
 納屋から借りたはさみを手にして、たくさんの薔薇達を臨む。
 凛としていて、華やかな姿。
 気高い雰囲気を醸す薔薇の美しさは、……ディオンの雰囲気とよく似ていると思った。

 ――いつもこの場所から、この景色を眺めていらっしゃった……

 国王に代わり、国のことを常に考えているディオンは、この場所でのひとときがゆっくりと心を休められる時間だったに違いない。
 甘い香りの満ちる中、どんなことを考えていたのだろう。

 目を閉じて思ってみても、フィリーナなんかに高貴な人の気持ちがわかるわけはない。
 だけど、……もし、自惚れでなかったのなら、自分のことを少しでも想ってくれるることがあったならいいのに、と図々しくも期待をしてしまう。

 ――“私が君を守ろう”
 ――“フィリーナ、……愛して――……”

 最後に聞いたあの澄んだ声が、切ない胸をディオンへの想いで溢れ返させた。

 ――もう一度……
 もう一度だけでいいですから、ディオン様のお気持ちを聞かせてください……っ……

 永遠を誓った心に、あと一度だけその言葉を聞かせてくだされば、たとえディオン様のおそばにいられなくなっても、生涯ディオン様への想いだけで私は生きていけます。
 だから、お願い神様――……


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