冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「まだお身体の傷は癒えておりません。安静になさってください」
「……そうか、あのときグレイスの剣を……」

 思い出した出来事に、ふっと息を吐くディオン。
 そしてまた、フィリーナの頬をたしかめるようにそっと撫でた。

「君が無事でよかった……けがはないか?」
「はい、なんとも」
「そうか……安心した」
「ディオン様……」

 また自分よりフィリーナの方を心配する想いの深さに、心は止めどない愛しさを噴き出す。
 フィリーナを守ると言ってくれた頼もしさが、心を掴んで離さない。
 大きなものを背負う背中で、本当にフィリーナを守ってくれた勇ましさが、愛おしくてたまらない。

「好きです、ディオン様……愛しております」

 溢れる想いが胸の中に留まりきれなくて、ついと零してしまった。
 大きく見開く漆黒の瞳に、ディオンの掌を離さない自分の影が見えて、はっと我に返る。

「っ、あのっ、それで……っ、そのっ……」

 あまりの恥ずかしさに、動揺が言葉をもつれさせると、思い立ったようにそこから離れようとする。
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