冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 それと、ある程度制限をされたヴィエンツェの元王宮での生活。
 それでも、爵位を与えられたクロード公爵の夫人として、今までよりもずっと落ち着いた暮らしをしているようだった。

 何のお咎めもなかったのは、ディオンの配慮。
 二人のこれまでの生い立ちを汲み、ヴィエンツェの安定を図ることを条件に、あの王宮に治まっているのだ。
 ヴィエンツェ元国王、レティシアの父も自己の横暴を反省し、レティシアとともにこれまでになく慎ましやかな生活を送っている。

 挨拶を済ませたレティシアとクロードは、所在なく早々に退散していく。
 やはり国王への侮辱行為と見なされた関係の二人は、十分に社会的制裁を浴びているようだった。

 そんな世界を気にしつつも、フィリーナは遠巻きに事の成り行きを見守っていた。
 もちろん、自分が足を踏み入れられる世界ではないし、そもそもただの使用人である自分が、そんな事情を詳しく知っていること自体、おかしな話なのだ。

 いつもフィリーナに世の動向を教えてくれていた澄んだ声を思い出して、胸が火照る。
 だけど、その声も届いてこないような遠い姿に、喉元が少し苦しくなった。


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