冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*

 次の日。
 太陽がすっかり活発な陽射しを降らせるようになった時間。
 全ての使用人が、王宮の正面入口のフロアに集まり、仰々しく花道を作り並んでいた。

「お母さん、大丈夫かしら」
「馬車の揺れに疲れているようなら、明日までは部屋でゆっくり休んでもらうといい」

 中央階段を先に降りていくのは、威厳溢れる黒髪の背中と、煌びやかな淡いピンクのドレスに包まれた華奢な身体。
 一歩遅れて階段を降りていく細い手を掬い取り、胸やけでもしそうな甘い表情をし続けているのは、先日王位を継承したばかりの我がバルト国国王、ディオン・バルティアだ。

「ありがとうございます。母にはそのように」
「ああ、構わないよ」

 国民の前ではちらりとも見せない表情で笑みを浮かべる。
 横にいる娘にだけ見せるその腑抜けた姿にでも頬を染めているのだから、フィリーナもずいぶんと骨抜きにされているのだろう。
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