冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 ディオン王太子が抱えるのは、フィリーナなどでは背負うどころか、到底手もかけられないような大きなものだ。
 それを、自分の私欲のためにめちゃくちゃに壊そうとした。
 今さらながら、フィリーナはその事の重大さに気づかされた。

「ダウリスにも、目を光らせるように言っておく」

 青ざめるフィリーナを覗き込む漆黒の瞳は、背中に大きなものを背負ったまま、真っ直ぐに凛々しい表情で堂々と告げる。

「フィリーナ。
 できる限り、私が君を守ろう」

 あまりに唐突な申し出に、目を真ん丸に見開く。
 実際に自分に差し出されたものだと理解するまでに、ディオンはやんわりと瞬きフィリーナの反応を待ってくれた。

「ディオン様、は……わたくしなんかよりも、もっと他に守るべきものがおありでは……」

 言われたことをじっくりと飲み込むと、漆黒の瞳がそれまでに見たことのない揺らぎを見せた。
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