徳井涼平の憂鬱

その弐

「恋人にしてよ。」

 思わず出てしまった本心に、唇を噛み締めた。

「わ・・・もう! そういうトコ匡平と似てる。」
「え?」
「冗談を急に真顔で言ったりするトコ。」
「はは・・・」

 胸の奥のほうがねじれて小さな悲鳴を上げる。

「そういうこと、好きでもない女の子に不用意に言っちゃダメだからね! 涼平くん男前なんだから、男前なりの責任感を保たないと!」
「何・・・それ?」
「破壊力だよ。そんな顔で・・・ドキッとするじゃない。」
「ドキッとしてくれた?」
「したわよ、悪かったわね。おばさんからかわないで!」
「自分で自分のことおばさんとか言わない方が良いよ。」
「・・・そうします。」

 抱きしめたい。小さな体を抱きしめて、このまま連れ去りたい。俺だけの朱希さんにしたい。その唇にキスをして、裸で抱き合いたい。
 いつも素っ頓狂な家族だけど、今日は五体投地したいくらい感謝してる。朱希さんと二人でお出かけなんて、誕生日プレゼント以上のスペシャルだ。・・・初めはそれだけで幸せだったのに、欲ばかり深くなる。
俺は朱希さんが欲しい。

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