徳井涼平の憂鬱
 漏れ聞こえてくる声に朱希が身を堅くしていると、気にする風もなく涼平が彼女の肩を抱き寄せ、歩き始めた。

「ヤダ!」
「ウソ・・・」

 彼女たちの悲鳴が人混みの中、かき消されて行く。

「やっぱしいたじゃん、涼平ファンクラブのヒト。」
「知らないよ。人違いじゃない?」

 喫茶店に入り、コーヒーを注文すると涼平は不機嫌そうに目をそらした。

「好きな人いるんでしょ?」
「え?」
「だから、今日は予行演習してるわけで・・・。同じ学校の子だとしたら、噂を聞いて勘違いされちゃうかも・・・涼平くん年増に騙されてる、とか」
「いないから・・・学校に好きなコとか・・・」
「そうなの?」
「俺の好きなのは・・・朱希・・・だから。」
「・・・りょう・・・」


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