空ーsky-
「何って。楠木ちゃんが昇降口急いで出たと思ったらで鞄ごそごそいじってカメラ取り出して、何か撮るのが見えたから、何撮ってるのかなと思って話しかけたんだけど……ごめん、驚かせちゃったし、迷惑だったよね。自己紹介でなるべく話しかけないでほしいって言ってたのに」

「なんで私の名前……それに自己紹介って?」

「えっ……俺たち同じクラスだよ。海堂 彩斗だよ」

海堂彩斗?……あっカラオケに誘われてた私の前の席の男の子。

「ごめんなさい。私、ほとんど学校来てないからわからなくて」

「いいよ。それより何撮ってたの?」

彼、海堂君は私の持っている一眼レフカメラを覗き込むようにしている。これは答えなきゃまずいな。

「空です。雲が、わた雲が出ていたので」

「わた雲?あっこういう雲のこと?」

海堂君は空を指さしながら、聞いてきた。彼、用事があるんじゃなかったっけ?

「あの……この後用事があるんじゃ?さっきカラオケ断ってましたよね?」

「あっそうだ、兄貴に店の手伝い頼まれてたんだった。まずい、鬼が出る」
クスッ

あっ笑えた。久しぶりに笑えた。

「あれ、笑われちゃった?」

「あっごめんなさい。でも、あまりにも必死な顔で鬼が出るなんていうから」

「いや、本当に鬼になるんだよ、うちの兄貴。だから、ごめんね。わた雲のこと詳しく聞きたいんだけど、また今度」

「はい」

海堂君は走り去っていった。きっとまた今度なんてありえない。だって人は忘れるもの。あっ図書館へ移管しちゃう。急がないと。
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