空ーsky-

春さんは毎日午後ここに来て、違う本を読んでいる。いつかこの人はこの図書館にある本を読破してしまうのではないかと私は思っていたりもする。といっても、彼は一度も借りることなく、図書館内でしか読まないのだけれど。

「今日は『空模様』だよ。西塔安音先生の」

「『空模様』いいですよね。私も読みました。小6の頃だったかな。西塔先生の作品にはまって」

「『空模様』を小6で?さすがすごいね、結月ちゃん」

西塔安音先生は十年前、今の私と同じ年の頃に『花色』という作品で有名な新人賞をとり、華々しくデビューした。彼女の才能は本物でデビュー作以降も何作もミリオンセラーを連発している。若手の作家を引っ張る作家のひとり。私も西塔先生の作品は何冊も読んできた。

「そうでもないですよ、きっと」

「いや、俺からしたら十分すごいの」

『閉館の時間になりました。貸し出しをご希望の方はすぐにカウンターにお持ちください』
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