黒き魔物にくちづけを
そんな彼の様子に構うことなく、エレノアは身を横たえて布団の中へと潜り込む。
「……今、一人で寝たら、また変な夢を見てしまいそうな気がしたんだもの」
そのまま視線をふいと外側に向けて、小さな声でぽつりと呟く。
「……」
その様子を見た魔物はしばらくエレノアを凝視し、それから諦めたように自らも寝転がった。──エレノアから、できる限り離れたところに。
「……そこ、窮屈じゃない?」
落ちかねない場所で身を固くしているラザレスに半眼で訊ねると、魔物はびくりと身体を強ばらせている。何もそこまで離れなくても、と思いながら、彼女は悪戯をするようにわざとそちらへ身を寄せた。
「お、おい……」
魔物はすっかり狼狽して、動揺がありありと表れた声をあげている。エレノアは気にしないことにして、その体勢のまま目を閉じた。
(……やっぱり、温かい)
彼のベッドは、当然ながらまだ先程までここで眠っていた主の温もりをたたえていた。エレノアのものよりも若干高いそれは、彼女をふんわりと包み込んだ。
この自分よりも少し高い温度に、とても安心している自分がいる。あの部屋で一人目覚めた時とは、何もかもが違った。
「……ねえ、ラザレス?私、聞きたいことがあるんだけど」
まだ落ち着かないのかそわそわしている魔物に、彼女は一方的にそう話しかけた。
「私がここに来る前、あなたはどんな風に暮らしていたの?」
訊ねると、近くにある彼の体が、ぴくりと動いたのがわかる。それから、ごそりと動いて彼がこちらを向いた。話すことで気が逸れたのだろうか、距離感は大分近いのに慌てた様子は見えなかった。