黒き魔物にくちづけを
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二度目に訪れた街は、雪が降ったからか少し様相を変えていた。
行き交う人が、どこか忙しなく歩いているのである。女は沢山の食べ物を買い込み、男は何か道具を持っていた。雪が深くなる前に食べ物を備え、屋根の補強でもしようというのだろうかとエレノアは思った。
薪はすぐに買えた。雪の効果か、エレノアの他にも薪を買いに来た客は多かった。そこで、エレノアは気になる会話を耳にする。
「この木はあの森からとってきたのかい?恐ろしいねえ……魔女や魔物には会わなかったかい?」
「会ってたら今ここにいないよ。大体そんなに深くにも行かないし、心配ないさ」
「わからないよ。森の入口で人間を待ち伏せする魔物もいるかもわからないじゃないか」
「怖いこと言うのやめてくれよ。ただでさえ恐ろしい魔物がいるという話じゃないか、仕事できなくなっちまうよ……」
常連客と店主の会話のようだった。聞こえてきた【魔物】という言葉に思わず耳をそばだてたのだが、その内容はどんぴしゃで噂のことだった。
(……やっぱり、森に凶暴な魔物がいると言われてるのね……)
様子を見る限り、噂は思っていたよりも広まっているらしい。エレノアはこっそりと溜息をついて、店を後にした。
続いて向かったのはセレステの店だ。小さな薬屋は、今日もひっそりと営業していた。
「こんにちは」
入店と同時に控えめにそう声をかける。少女は顔を上げるとすぐに気がついてくれたようで、ぱっと表情を明るくさせた。
「エレノアさん!来てくださったんですね!」