黒き魔物にくちづけを
「ビルドはこぶー」
そうしていると、ビルドがあっという間に彼女の手からそれらを奪って飛んでいってしまう。珍しく気の利くカラスの後ろ姿にもう一度礼を言ったあと、彼女も屋敷へと足を踏み出した。暖炉の火はもう消えてしまっているのだろう、中からの灯はなく、月も雲に隠れていて、辺りはとても暗かった。
視界が悪い上、雪もさらに深くなっていた。転ばないように気をつけながら進んでいると、もう少しで屋敷の玄関というところで、ふと雲が途切れて、隠れていた月が顔を覗かせた。
そして、闇に紛れるように佇んでいた彼の姿に、彼女はようやく気がついた。
「……ラザレス?」
──そう、そこにいたのはラザレスだった。暗いところに、黒い獣の姿でじっと佇んでいるから、危うく通り過ぎてしまうところだった。
いつからそこにいたのだろうか、頭に雪をこんもり被っているから、もう長い間いるのかもしれない。彼はどうしてだかひどく驚いたような顔をして、エレノアを見つめていた。
「どうしたの?雪、つもってるじゃない。そんなところにずっといたら寒かったでしょう」
エレノアは驚いて駆け寄って、魔物の頭に手を伸ばしてつもった雪を払ってやる。彼は獣の姿のまま、エレノアに頬を擦り寄せてされるがままになっていた。胴体にも同じように雪が積もっていたので、そちらにも手を伸ば──そうとして、ふと、魔物が元の姿に戻った。
魔物の体がみるみるうちに縮んでいく。気がつけば、魔物の頭を抱えるようにして雪を払っていたエレノアは、逆に彼に抱きしめられていた。