黒き魔物にくちづけを
くるくると、めちゃくちゃな足運びで、手を繋いだ二人は回る。その滑稽な動きに、エレノアは自分でやっておきながら可笑しくなってきた。
「街では夜通し音楽を奏でるんだそうよ。こんなふうに踊っている人たちもいたわ。だから、ね、私達もやってみましょうよ」
右へ、左へ、ふらふらした足取りでまわりながら、彼女はそう言ってラザレスを誘う。目の前に彼がいるというだけで、何だかとても、楽しくて仕方がなかった。
「……だが俺は踊りなんて出来ないぞ」
「それは大丈夫よ、私もやったことないもの」
拒みはしないものの微妙に渋るラザレスに、エレノアはあっけらかんと言う。彼は一瞬目を丸くして、それから呆れたように少し口の端を上げた。
「……これじゃ、踊りというより怪しい動きじゃないのか」
お互いに経験のない二人の動きは、当然だけどロマンチックなダンスとは程遠い。慣れない動きにぎくしゃくしているラザレスは、それでも頬を緩ませていた。
「うーん、どうやってたかしら……。そうね、あなたが私の腰に手を回して、私があなたの肩に添えて……あっ、ちょっとそれっぽくなったんじゃないかしら?」
エレノアとラザレスの右手を、それぞれ相手の腰と肩にまわしてみると、先ほどよりは大分ダンスらしい風貌になった。
「……そうかもな」
はしゃいだエレノアの声に対してラザレスがそう返す。あちこちに足を運ぶエレノアにうまく動きを合わせる彼の表情は、決して嫌そうなものではなかった。
もちろんここには、楽を奏でる者などいない。飾り付けられたツリーも、明るいランタンだって一つもない。けれど雪を運ぶやわらかな風はひゅうと音をたてて踊るし、足元の雪は踏みしめるとさくさく鳴る。月明かりに照らされた一面の銀世界。そこは、二人だけのための会場だった。