黒き魔物にくちづけを
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「……っ!!」
勢いよく、目を覚ました。
ガバリと上体を起こした彼女は、はあはあとあがった呼吸を繰り返して、夢から覚めたことを自覚する。
「う……」
両手で、頭を覆った。そこはずきずきと痛みを訴えていた。
(今見た夢は……なに……?)
激しい頭痛に苛まれながら、彼女は先程まで見た夢の光景について考える。思い出そうとするとさらに酷くなりそうだったけど、そうせずにはいられなかった。
昔から、頻繁ではないけれど繰り返し見ていた、幼い自分に似た少女が幸せそうに笑っている夢。その夢の頻度も内容もが、この森に来てから大きく変わっていることに、とっくに気がついていた。
(あの格子は何……?ラザレスって名乗った子は?その子に似てる、黒髪の子は、誰なの……?)
突きつけられた光景とともに、いくつもの疑問符が脳裏を駆け巡る。
牢屋のような格子に関しては、それ自体が異常事態のような雰囲気を醸していた。牢屋も檻も、誰かや何かを閉じ込めるためのものだ。空のものならともかく、格子はしっかりと閉じられていたのだから、使われていたということで。あんなところを使うような、何かがあったということだろうか。
そして向こう側にいた男の子のことだ。ラザレスと名乗った彼が、エレノアの知るラザレスなのだとしたら。どうして、あんな所にいたのだろう。
(村人に、捕まえられたの……?ラザレスが?どうして……?)
そして──疑問はもう一つ。エレノアのことを『姉さん』と呼んだ、男の子のことだ。