黒き魔物にくちづけを
◇人の心から生まれしものたち
街からやってきた人間が、魔女だなんだと騒いでいった日から数日。包帯がとれるかとれないかといった位まで、エレノアの傷が回復した頃合のことだった。
雪は珍しく降っていなかった。天気は快晴で、深く積もった白い世界をきらきらと照らしていた。
彼らの住む屋敷の庭は、昔は貴族のものだっただけあってかなり広い。その全てを雪が覆っているさまは、なかなかに壮観だった。
その真ん中で騒ぐ、黒い染みが一つ。
「ないーーーーーー!」
黒い染み──ビルドのだみ声が、辺りに響き渡った。
*
「……こっちにもそれらしきものは見当たらないわよ」
庭の端にいたエレノアは、そう声をかける。ビルドは半泣きのような顔で振り向いた。
「ないの?どこにも?ビルドのおたからないの?……かしらも?ない?」
「……こっちにもないな」
カラスは信じたくないといった表情で、何度もそう問うて確認する。それでもやはりないのだと頷かれてしまい、がっくりと翼を落として項垂れた。
ビルドが探しているのは、本人が言うところの「おたから」──つまり、コレクションに加えられる予定の、今日拾ったというガラクタだ。ちなみに、透明でぴかぴかした丸いものらしい。
時を少し遡る。エレノアとラザレスが食べるものを調達しに森へ行った帰り、どこかへ行っていたらしいビルドとたまたま屋敷の前で鉢合わせた。遠くから二人の姿を見つけたカラスは大声で「かしらとえーのあ!」と叫び、その拍子に、嘴にくわえていた戦利品を落としたということらしい。慌てて探したのだが、雪にでも埋もれてしまったのか、どんなに探しても出てこないのである。
落とす原因になってしまったと言えなくもないので、一応二人ともガラクタ、ではなくておたから探しに付き合ってはいるものの、もうすっかり指先が雪で冷えてきてしまっている。エレノアははあと溜め息をついた。