黒き魔物にくちづけを

「……そう、ですね。噂がかなり流れているのは確かです。確か、髪を振り乱して呪いの言葉を吐きながら、黒い魔物を呼び出して操る魔女……だったような」

「髪を振り乱して呪いの言葉……?」

セレステの言葉に疑問の声をあげたのはラザレスだ。彼は何故か不満そうな顔をして彼女に問い返した。

「それはエレノアでは無いのではないか?こいつはそんなことをしていない」

「いや、私のことよきっと……」

言葉を額面通りに受け取ってそんなことを言っているラザレスに、エレノアは思わず苦笑する。時期と地域、それから黒い魔物という情報の整合性から見てエレノアのことで間違いない。大方、噂として広まるうちに尾ひれがついたのだろう。

まだ解せないといった表情のラザレスは置いておくことにして、彼女は質問を続けることにした。

「……それで?他には?街の様子はどんな感じ?」

「ええと……そうですね。森へ行った人たちですが、自治役員の人たちだそうです。彼らは特に敬虔な信者で、魔女という存在を憎んでいるそうですよ。皆さん森で怪我を負ったらしく、治るまでは大人しくしているようですが……」

「自治役員……」

彼女はげんなりと呟く。

自治役員だとか自治体だとか、とにかくそういう集団にいい思い出は何一つなかった。集団をまとめる位置につこうなんて奴らはどういうわけか熱心な信者が多く、魔物や魔女を積極的に排斥しようとする輩が多いのだ。
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