黒き魔物にくちづけを
第五章
◇狂気に染まる銀色
──パァン!
森の方から響いた乾いた音は、すぐさま二人を現実へと引き戻した。
「なんだ……!?」
ラザレスが素早く立ち上がり、窓を開けて耳をそばだてる。エレノアは彼を目で追いながら、はやる鼓動を感じていた。
(今の音……銃、よね)
今しがた聞いた音を思い出す。響いてきたものだから多少ぼやけてはいたが、間違いなくあれは銃弾が放たれた音だろう。それはつまり──。
「……火薬の匂いがする。森に人間がいる」
エレノアが結論を出すのとほぼ同時に、ラザレスがそう言う。彼の鋭敏な五感は、森へ害をなすものの存在を的確にとらえたようだ。
「人間……一応聞くけれど、セレステたちとは別の集団よね」
まさか、とは思いつつ、一応彼女はそう問う。彼らが帰り道に何かに襲われて、発砲せざるを得ない状況になったということも可能性としてはゼロではないからだ。
けれど、ラザレスは即座に首を振った。
「違う。あいつらからは火薬の臭いがしなかった。銃など持っていないはずだ。それに方向が違う。間違いなく、別の人間達だろう」
「……と、いうことは、また魔女狩りに来た人間たちでしょうね。噂が活発になったって言っていたから……」
ラザレスの答えを受けて、エレノアは腕を組んで考える。どうやら人間たちは、森にいる異物を捕まえることに躍起になっているらしい。
やはり前回、エレノアの姿を見られてしまったのは痛かった。彼らの信仰とうまく結びついて、魔女を排除する動きが活発になってしまったようだから。
(……狙いは、きっと私だわ。どうしたらいいかしら……)
自分の身の振り方について、数瞬彼女は迷った。けれど、ラザレスが動き出したのはそれよりも早かった。