黒き魔物にくちづけを
(……とにかく、早く手当を終わらせなきゃ)
止血が終わると、彼女は腕で荒々しく涙を拭った。まだ一つの矢傷の止血しかしていない。休んでいる暇など、無かった。
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手当てが終わる頃には、ラザレスの様子は落ち着いていた。うなされたり呻く様子もなく、深い眠りについている。ビルドは、魔物の回復力ならこのままで心配はないだろうと言っていた。
冷たい布で彼の額の汗を拭って、エレノアは立ち上がった。長時間にわたる処置で、彼女自身も疲労困憊していた。服も返り血でひどい有様となっているし、小休止を挟むことにしたのだ。
「えれぬー、おつかれサマ」
「ええ、ビルドもありがとう」
手当てを手伝ってくれたビルドに礼を言う。気まぐれなカラスのことだから休みがてらそのままどこかへ行くのかと思っていたら、
「……ニンゲン、たくさんいた。イマまでで、イチバン」
必要なものを用意するエレノアに、ビルドがぽつぽつと話し始める。話題はもちろん、ラザレスに何があったかというものだ。
人間が沢山、今までで一番。つまり、それほど大勢で攻め込んできたということか。エレノアは見ていないからわからないけれど、ラザレスがこんなにぼろぼろになるくらいだ。本当に、大勢だったのだろう。
「ニンゲン、ヒッシだった。かしら、えーのあがいなくてよかったってイッテタ」
「…………」
彼女は黙って唇を噛む。そんなに大勢だったのであれば、エレノアがいたら足を引っ張ってしまっていただろう。けれどその言葉が出るということは、やはり狙いは魔女──彼女自身だったのだろうと、エレノアは気付いてしまって。