黒き魔物にくちづけを
(この街、こんなにどんよりとしていたかしら……?)
一見すると、以前訪れた時と何も変わっていないはずだ。けれど漂う雰囲気が、行き交う人々の表情が、どんよりと陰鬱に沈んでいるように感じるのだ。
まるで空気が暗く澱んで、重くのしかかってくるような。
(……って、今はそれどころじゃないわ)
一瞬足を止めかけたエレノアは、けれどすぐにかぶりを振って雑念を頭から追い出した。街のことになんて構っている暇はないのだ。一刻も早く、彼の毒消しを手に入れないと。
「セレステ!毒消しを……!」
目的の薬屋に辿り着いたエレノアは、扉を開けると同時に叫ぶようにそう言う。中にいた少女は飛び込んできた人物を見て目を丸くした。
「エレノアさん!?何か──」
何かあったのですか。そう続けようとしたのだろう彼女の言葉はしかし、息せき切ったエレノアに遮られる。
「ラザレスが毒で苦しんでいるの。これ……!」
外套をポケットから取り出すことさえもどかしく思いながら、変色した矢尻を差し出す。それを受け取ったのは、セレステではなく奥から出てきたハウエルだった。彼は一目矢尻をみとめると、その眉をひそめた。
「これは……」
黙り込んだ彼に、エレノアは嫌な予感を覚えながら詰め寄った。
「何か分かる?分かるのね?その毒を消す薬が欲しいの」
「……無い、ことは無いが」
歯切れが悪いハウエルの言葉に、エレノアは思わず眉を吊り上げる。どういう意味、と叫びだしたいのを堪えていると、一拍置いて彼は続けた。
「……恐らくこの毒は、大毒蛇の牙からとったものだ。僕も、ここまでのものをお目にかかるのは初めてだが」
青く変色した矢尻を示して、彼は「こんなに鮮やかな青に変色させるのは相当な毒性だ」と言う。嫌な予感は当たってしまったのだ。
一見すると、以前訪れた時と何も変わっていないはずだ。けれど漂う雰囲気が、行き交う人々の表情が、どんよりと陰鬱に沈んでいるように感じるのだ。
まるで空気が暗く澱んで、重くのしかかってくるような。
(……って、今はそれどころじゃないわ)
一瞬足を止めかけたエレノアは、けれどすぐにかぶりを振って雑念を頭から追い出した。街のことになんて構っている暇はないのだ。一刻も早く、彼の毒消しを手に入れないと。
「セレステ!毒消しを……!」
目的の薬屋に辿り着いたエレノアは、扉を開けると同時に叫ぶようにそう言う。中にいた少女は飛び込んできた人物を見て目を丸くした。
「エレノアさん!?何か──」
何かあったのですか。そう続けようとしたのだろう彼女の言葉はしかし、息せき切ったエレノアに遮られる。
「ラザレスが毒で苦しんでいるの。これ……!」
外套をポケットから取り出すことさえもどかしく思いながら、変色した矢尻を差し出す。それを受け取ったのは、セレステではなく奥から出てきたハウエルだった。彼は一目矢尻をみとめると、その眉をひそめた。
「これは……」
黙り込んだ彼に、エレノアは嫌な予感を覚えながら詰め寄った。
「何か分かる?分かるのね?その毒を消す薬が欲しいの」
「……無い、ことは無いが」
歯切れが悪いハウエルの言葉に、エレノアは思わず眉を吊り上げる。どういう意味、と叫びだしたいのを堪えていると、一拍置いて彼は続けた。
「……恐らくこの毒は、大毒蛇の牙からとったものだ。僕も、ここまでのものをお目にかかるのは初めてだが」
青く変色した矢尻を示して、彼は「こんなに鮮やかな青に変色させるのは相当な毒性だ」と言う。嫌な予感は当たってしまったのだ。