黒き魔物にくちづけを
口と鼻を覆うように押し付けられた手に呼吸を阻まれて、エレノアは息苦しさに身をよじった。けれど男の腕はそんなものではびくともせず、彼は苦しげなエレノアを優越の表情で見下ろしてから、周りの男達に告げた。
「魔女の言うことなどに耳を貸すでない。惑わされ心を乗っ取られて身を滅ぼすぞ。それに、この女が魔女である証拠はこれから我々で見つけるのだから問題ない」
大仰な口ぶりでそう告げると、男はようやくエレノアの口から手を離す。窒息寸前のところだったエレノアは大きく咳き込んだ。
(……『証拠はこれから我々で見つける』って、なんだか引っかかる言い方ね)
呼吸を落ち着かせながら、エレノアは先ほどの言葉について考える。魔女である証拠を見つけられると微塵も疑っていない言い分だ。それだけなら思い込んでいるだけだととることも出来るのだが、男の先程の言葉の響きには『例え見つからなかったとしてどうとでもなるから問題無い』と言うような余裕さえ含まれているような気がしたのだ。
けれどそんなエレノアを他所に、男達は当たり前のようにその言葉を受け入れてそうだそうだと頷いている。
(そもそも魔女である証拠って何かしら?)
また口を塞がれたらたまらないから声には出さなかったが、エレノアが気になって首を傾げた瞬間だった。
「では司祭様。……【魔女裁判】の開始をお告げください」
先ほどエレノアの口を塞いだ男が声を張って遠くにいる人物に向かって言う。すると取り囲んでいた男達が道を開けて、背後から仰々しい白装束を纏った人物が現れた。あれが司祭ということか。
カツカツとこちらに向かってくる靴音にエレノアは身構えた。が、司祭はそんな彼女の隣を通り過ぎ、そのまま部屋の奥に向かって歩き続けていく。
「魔女の言うことなどに耳を貸すでない。惑わされ心を乗っ取られて身を滅ぼすぞ。それに、この女が魔女である証拠はこれから我々で見つけるのだから問題ない」
大仰な口ぶりでそう告げると、男はようやくエレノアの口から手を離す。窒息寸前のところだったエレノアは大きく咳き込んだ。
(……『証拠はこれから我々で見つける』って、なんだか引っかかる言い方ね)
呼吸を落ち着かせながら、エレノアは先ほどの言葉について考える。魔女である証拠を見つけられると微塵も疑っていない言い分だ。それだけなら思い込んでいるだけだととることも出来るのだが、男の先程の言葉の響きには『例え見つからなかったとしてどうとでもなるから問題無い』と言うような余裕さえ含まれているような気がしたのだ。
けれどそんなエレノアを他所に、男達は当たり前のようにその言葉を受け入れてそうだそうだと頷いている。
(そもそも魔女である証拠って何かしら?)
また口を塞がれたらたまらないから声には出さなかったが、エレノアが気になって首を傾げた瞬間だった。
「では司祭様。……【魔女裁判】の開始をお告げください」
先ほどエレノアの口を塞いだ男が声を張って遠くにいる人物に向かって言う。すると取り囲んでいた男達が道を開けて、背後から仰々しい白装束を纏った人物が現れた。あれが司祭ということか。
カツカツとこちらに向かってくる靴音にエレノアは身構えた。が、司祭はそんな彼女の隣を通り過ぎ、そのまま部屋の奥に向かって歩き続けていく。