黒き魔物にくちづけを
第一章
◇魔物の棲む森
「は……?」
晴れやかな、朝。エレノアは、絶句していた。
小さな喫茶店の、店先。店員としていつものように出勤しようとした彼女に待っていたのは、店主夫妻からの思いもよらぬ言葉だったのだ。
「突然で悪いんだけど、もううちではあなたを雇えなくなってしまったのよ……」
わざとらしく眉を下げながら言うのは店主の妻だ。申し訳なさそうな表情を浮かべているものの、その瞳はどこかよそよそしい光を浮かべている。
「クビ……ということでしょうか」
突然のことに驚きつつも、エレノアは冷静だった。扉に手をかけた中途半端な格好のまま、彼女は夫妻を見つめ返す。
「そうなんだよ、申し訳ないね……」
店主が禿げ上がった頭を掻くのを、彼女は眺める。どうやら彼女は解雇されたらしい。それも、たった今。
「……。理由を、お尋ねしても?」
あまりにも唐突すぎる通告に、彼女は当然の疑問を返す。夫妻は揃って、居心地悪そうに顔を見合わせた。
「それは……ええと」
「……あ、あっと、そうだ!経営が厳しくなってしまってね」
「そ、そうそう!このところ、野菜の値段だってどんどん高くなっているし……」
夫婦はぺらぺらと、いかにも今思いつきましたというような理由をまくし立てる。
何が経営が厳しくなった、だ。確かに野菜の価格高騰は起こっている、けれど、この店の客の数が日に日に増えていることをエレノアは知っていた。嘘に決まっている。
よくまわる二人の口に、エレノアは冷やかな目を向けた。すると、二人は揃って怯えたような表情を浮かべる。……間違いない。
「……この目ですか」
すっ、と。ゆっくりと腕を持ち上げて、彼女は自分の瞳を指さした。
晴れやかな、朝。エレノアは、絶句していた。
小さな喫茶店の、店先。店員としていつものように出勤しようとした彼女に待っていたのは、店主夫妻からの思いもよらぬ言葉だったのだ。
「突然で悪いんだけど、もううちではあなたを雇えなくなってしまったのよ……」
わざとらしく眉を下げながら言うのは店主の妻だ。申し訳なさそうな表情を浮かべているものの、その瞳はどこかよそよそしい光を浮かべている。
「クビ……ということでしょうか」
突然のことに驚きつつも、エレノアは冷静だった。扉に手をかけた中途半端な格好のまま、彼女は夫妻を見つめ返す。
「そうなんだよ、申し訳ないね……」
店主が禿げ上がった頭を掻くのを、彼女は眺める。どうやら彼女は解雇されたらしい。それも、たった今。
「……。理由を、お尋ねしても?」
あまりにも唐突すぎる通告に、彼女は当然の疑問を返す。夫妻は揃って、居心地悪そうに顔を見合わせた。
「それは……ええと」
「……あ、あっと、そうだ!経営が厳しくなってしまってね」
「そ、そうそう!このところ、野菜の値段だってどんどん高くなっているし……」
夫婦はぺらぺらと、いかにも今思いつきましたというような理由をまくし立てる。
何が経営が厳しくなった、だ。確かに野菜の価格高騰は起こっている、けれど、この店の客の数が日に日に増えていることをエレノアは知っていた。嘘に決まっている。
よくまわる二人の口に、エレノアは冷やかな目を向けた。すると、二人は揃って怯えたような表情を浮かべる。……間違いない。
「……この目ですか」
すっ、と。ゆっくりと腕を持ち上げて、彼女は自分の瞳を指さした。