現状報告!オタク女子ですが、エリート上司に愛されてます。
「ただいまー」
金曜日。
週末ということもあり、仕事が終わったあと、いっしょにご飯を食べようということで志木さんの家に来ていた。
だけど、志木さんの方が仕事が終わるのが遅いので、前にもらった合鍵で、私だけ先にお家におじゃまさせていただいていた。
「おじゃましています。お疲れ様でした」
「あれ? それ、なに見てんの?」
リビングのソファに腰かけて、手に何枚もの資料を持った私を見て、彼がそう尋ねてくる。
「え、と」
恥ずかしいけど、私は持っている資料を志木さんに見せようと、彼に手渡す。
彼もそれを受け取りながら、私の隣に座った。
「年金、法務、税務、融資渉外」
それぞれの資料に目を通しながら、彼がそこに書いてある文字を読み上げていく。
「なに、資格の勉強? 懐かしいな、全部受けたことあるから、受けるなら教えてやろうか?
でもこれ、内容的に、課長職に就いてる社員でも持ってるか持っていないかのものばっかだぜ。沙代は、今の自分の必要な資格は充分すぎるくらい持ってるだろ?」
彼はそう言って不思議そうな顔で私を見つめてくる。
確かに、結婚も恋愛もせずに家に寄生していると親からの視線が痛いから、というしょうもない理由で資格だけはたくさん取って”仕事がんばってるアピール”をしていたため、彼の言うことはもっともでもある。
だけど。
「自分になにができるかって考えた時に、正直、よくわからなくて。
だけど、志木さんが私を好きになってくれたキッカケは、私が仕事をがんばってるように見えたから、っていう理由だから。
でもそれは、誰よりも熱意を持ってがんばっていたわけじゃなくて、個人的なしょうもない理由でがんばっていただけで。
でも私、仕事はほんとに隙なんですよ。だから、もっと胸を張れるように、せめて誰よりも努力したいなって。勉強は嫌いじゃないですし」
恥ずかしいけど自分の気持ちを正直に彼に伝えると、彼はフッと笑った。
「ちょ、なんで笑うんですか! バカにしました?」
「してないしてない。こりゃー、課長席をとられるのも時間の問題だなと思いまして」
「やっぱりバカにしてる!」
ポカ、と彼の肩を軽くグーで叩いてみる。
でも彼は、どこまでもやさしい瞳で私のことをまっすぐに見つめながら。
「本当だよ」
と、言ってくれて。
その後、彼は私の頭を「よしよし」と撫でる。
うーん、本心なのか、やっぱりバカにされているのか、よくわからない。
だけど、もちろん嫌な気持ちはしないし。
それに、あんなふうにやさしい目で見つめられたら。
まるで、『がんばってるお前が好き』と言われているようで……って、それはさすがにうぬぼれすぎ!!?
と、私が心の中でひとり勝手にワタワタとしている間に、彼は私が渡した資料すべてに目を通してくれて。
「ま、将来的に出世を重視するなら、やっぱり融資渉外じゃないか? 今の業務に対する知識も深められるし、営業職の内容にも目を向けられる。仕事の幅が増えれば出世への近道だからな」
なるほど、と私は何度も頷いた。恥ずかしいのを承知で彼に相談してみて良かった。