現状報告!オタク女子ですが、エリート上司に愛されてます。
「受験集貸してやるよ。ちょっと書き込みとかしてあって汚いけど」

「ありがとうございます。またいろいろお聞きすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いします」

「いいよ。代わりに俺からもひとつお願いしたいことがあるけど」

「え?」

なんだろう。勉強を教えてもらう代わりに、私も彼になにか教えるとか? いやいや、私が教えてあげられることなんてなにもないけど。

すると、彼は。


「ぎゅってさせて」


と、両手を広げて言ってくる。


……ぎゅ?


「なにをですか?」

「クマのぬいぐるみを、とでも言うと思ってんのか。沙代を、に決まってるだろ」

「ふぁっ」

ビックリして、変な声を出してしまった。

ぎゅ、って抱きしめられるのは初めてじゃないのに、改めてそう言われると、なんだか照れてしまう。


「で、では失礼します」

私はそう言って、スススと彼に近づき、彼の腕の中に収まった。

言葉通り、彼は大きな両腕で私をぎゅ、っと抱きしめてくれる。

温かい。安心する。


「志木さん、良い匂いしますね」

「え? 俺、香水とかなにもつけてないけど」

「じゃあ気のせいか」

「ははっ。お前、雰囲気でそれっぽいこと言うんじゃねーよ」

……時々だけど。志木さんは、ふたりっきりの時だと普段とちょっとだけ口調が変わることがある。『だぜ』とか、『じゃねーよ』とか。
ちょっぴりだけ乱暴で、少年みたいな話し方。
でも、私にだけ使うその口調が、私はたまらなく好きなんだ。
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