現状報告!オタク女子ですが、エリート上司に愛されてます。
――それは六年前。私が二十四歳の頃。
その日、私は仕事でミスをしてしまった。幸い、大事にはならなかったものの、結構落ち込んでしまい、ストレス解消に漫画を大量買いしようと、仕事終わりに本屋へ寄った。
なんの漫画を買おうか悩んでいた時に、その日はちょうど、リング文庫の新刊の発売日だったことを思い出す。
リング文庫からは主にBL小説が発行されていて、私のお目当てもそれだった。一番好きなジャンルってわけじゃないけど、私はBLも大好きなのだ。
普段は数冊ずつしか買わないけれど、その日は新刊を一気買いした。
そして、本の入った紙袋を胸に抱えて、本屋を出た。
その時に、誰かとぶつかってしまった。
『す、すみません!』
『いや、俺もよそ見していたので』
『あ……』
その男性が、志木さんだった。
その頃はまだ同じ支店で働いたことはなかったし、支店合同の飲み会などで数度、見たことがある程度だった。
カッコいいし、仕事がすごくできる人だって評判だったから、その数度でも覚えていたのだ。
『なに? あ、もしかして同じ職場の子?』
『は、はい。西町支店で勤務している、井原 沙代と言います』
この時、なんで名乗ってしまったんだろう、と後で猛烈に後悔することになる。
『そうなんだ。ぶつかってごめんね』
『い、いえ! 私の不注意で――あれ?』
そこでようやく、重大なことに気づく。両腕に抱えていた紙袋がなくなっていることに気づいたのだ。ぶつかった時に落としてしまったのだろう。
『これ、今落としたよね』
『え、あっ!』
その紙袋は、無情にも志木さんの足元に落ちていた。
しかも、そのうちの一冊が袋の中から飛び出していて、志木さんはそれを拾ってくれた。
……その時に、表紙を見られた。
さらには、彼はその表紙をまじまじと見つめ、タイトルを読み上げる。
『えーと、『ガチムチリーマンは上司に襲われて今夜も眠れない。』? 君、こういうの読むんだ?』
全身から血の気が引いて、自分の顔がサァーッと青くなっていくのがわかった。
なんで、よりによってその本。
ほかの本なら、そこまでハードなタイトルじゃなかったのに。
しかもその本、タイトルだけじゃなくて表紙も……ガチムチのオジサンとその上司がふたりとも裸でいかにもアレな感じのイラストで……。
『……すみません!』
私は志木さんから本を奪い取るようにして、その場から走り去った。