毒、ときどき蜜
「梨央が美味そうに食べてるところ見るの、俺、大好きなんだよね」


チョコレートケーキごしに見る尚の顔は、チョコレートの百倍は甘かった。


「………尚」


呼ぶと、すぐに「ん?」と答えてくれる声。


「好き」


呟くと、尚は、


「知ってる。俺も」


と微笑んだ。


「ずっと一緒にいたい」

「知ってる。俺も」


ふふふっと顔を見合わせて笑う。


「で、それは、いつ俺に渡してくれるの?」


そう言って尚が指差したのは、私が作ってきた手作りチョコレート。

いつ渡そうかとタイミングを見ているうちに、険悪な雰囲気になってタイミングを逃してしまった。


「あ、ごめん、忘れてた」

「ひど。楽しみにしてたのに。どんだけ間抜けなの」

「ごめん……」

「まあ、そういうとこも可愛くてたまらないんだけどね」


そんな甘いことをさらりと言ってのけた尚は、私の作ったトリュフを口に入れ、「おいしい」と微笑む。


尚は甘いものがあまり好きではなくて、普段はめったにチョコレートなんて食べないけれど、

私が作るバレンタインチョコだけは、毎年必ず食べてくれるのだ。


「尚は、優しいね」


ひどいこともたくさん言うけど、いつだって、今日だって、優しい。


「好きな子には優しくするでしょ、それは」


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