毒、ときどき蜜
*
「ねえねえ、尚、見て!」
私は試着室のカーテンを勢いよく開けて、少し離れたところで腕組みをして立っていた尚を手招きした。
「なに?」と首をかしげながら寄ってくる尚。
私は彼の前で、試着中のワンピースの裾をつまんで「見て見て!」と一回転する。
「ねえ、この服、すごく痩せて見えない? なんか細く見えるよね? ね?」
鏡に自分の姿を映して、やっぱり私はにやけてしまう。
シックな色のおかげか、ストライプ柄のおかげか、身体のラインを上手く隠してくれるシルエットのおかげか、分からないけどとにかく細く見える。気がする。ふふふ。
だから、それを確かめるためにも彼に同意してほしかったのだ。
「ね、どう?」
振り向いて問いかけると、難しそうな顔で私を上から下まで見た尚が答えた。
「んー……まあ、少しは細く見える、かもしれない」
「ふふっ、だよね!」
「でも、意味ないよね」
「ん?」
耳を疑って聞き返すと、尚はにっこりと笑った。
「たとえ痩せて見えるとしても、実際に痩せたわけじゃないから、梨央の体脂肪率には一切変化がないわけで、つまりは何の意味もなくない?」
上がっていたテンションが、一気に急落した。
「……もういいっ、ばか!!」
私はカーテンを勢いよく閉めて、着ていたワンピースを秒速で脱いで試着室から飛び出した。
そのまま服をもとの場所に戻し、店を出る。
あとを追いかけてきた尚が、「買わないの?」と心底不思議そうに訊ねてきたけれど、
「買うわけないでしょ、ふんっ!」と素っ気なく言い返してやった。
尚ってば相変わらず、女心ってものを全く分かってない!