毒、ときどき蜜




「ねえねえ、尚、見て!」


私は試着室のカーテンを勢いよく開けて、少し離れたところで腕組みをして立っていた尚を手招きした。

「なに?」と首をかしげながら寄ってくる尚。

私は彼の前で、試着中のワンピースの裾をつまんで「見て見て!」と一回転する。


「ねえ、この服、すごく痩せて見えない? なんか細く見えるよね? ね?」


鏡に自分の姿を映して、やっぱり私はにやけてしまう。

シックな色のおかげか、ストライプ柄のおかげか、身体のラインを上手く隠してくれるシルエットのおかげか、分からないけどとにかく細く見える。気がする。ふふふ。

だから、それを確かめるためにも彼に同意してほしかったのだ。


「ね、どう?」


振り向いて問いかけると、難しそうな顔で私を上から下まで見た尚が答えた。


「んー……まあ、少しは細く見える、かもしれない」

「ふふっ、だよね!」

「でも、意味ないよね」

「ん?」


耳を疑って聞き返すと、尚はにっこりと笑った。


「たとえ痩せて見えるとしても、実際に痩せたわけじゃないから、梨央の体脂肪率には一切変化がないわけで、つまりは何の意味もなくない?」


上がっていたテンションが、一気に急落した。


「……もういいっ、ばか!!」


私はカーテンを勢いよく閉めて、着ていたワンピースを秒速で脱いで試着室から飛び出した。

そのまま服をもとの場所に戻し、店を出る。


あとを追いかけてきた尚が、「買わないの?」と心底不思議そうに訊ねてきたけれど、

「買うわけないでしょ、ふんっ!」と素っ気なく言い返してやった。


尚ってば相変わらず、女心ってものを全く分かってない!


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