毒、ときどき蜜
私の彼氏の尚は、ご覧の通り、とてつもなく毒舌で無神経で屁理屈屋だ。


『この服なんか痩せて見えない?』と女の子が訊いたら、

男の子は『うん、痩せて見えるね』って同意してくれればいいのだ。


なのに、尚のやつ、なんにもわかってない。

『実際に痩せたわけじゃない』なんて、無神経すぎるでしょ。

こっちからしたら、そんなの言われなくても分かってるよ。

でも、すぐには痩せられないけどせめて少しでも細く見せたいっていう可愛らしい乙女心なの。


なのに、あまつさえ『体脂肪率には一切変化がないから無意味』だなんて。

毒舌にもほどがある。


ぷんすかと怒りつつ歩いていると、忘れたころにやっと尚が追いついてきた。

私の怒りが収まるのを待っていたんだろうけど、そう簡単に許せるわけがない。


しばらく無言で歩いていると、カフェの横を通りかかった。

怒ったせいか喉が渇いていたし、少し足を休めたいのもあって、私は店内へ続くドアをくぐった。



「……あーあ。そろそろ本気でダイエットしようかなあ」


注文を終えて待っている間に、私は自分の下腹をつまみながら呟く。


最近は仕事が忙しくて、食事の時間が不規則になっているせいか、

心なしか下腹やら二の腕やら顎回りやらがぷにぷにしてきた気がするのだ。

そろそろ痩せなきゃ、やばい。

さっき尚にも体脂肪率とか言われちゃったし、私はわりと真剣に心の中でダイエットの計画を立てようとしていた。

ところが。


「言うだけ無駄だから、やめれば」


尚からの冷たい返答。

むっとして彼の顔を見ると、おかしそうにくすくす笑っていた。


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