毒、ときどき蜜
「梨央はいっつもそういうこと言って、結局ダイエットなんて実行したためしがないじゃん」

「むう、今度こそは本気だよ!」

「嘘だね」

「なんで分かるのよ」

「だって、ほら」


尚がくくっと笑って、ちょうどその時ウェイトレスさんがもってきてくれた『濃厚チョコレートケーキ生クリーム添え』の皿を指差した。


「そんなカロリーの高そうなもの注文しといて、今度こそは本気でダイエットだなんて、よく言えるよ」

「……これはっ、ダイエットの決意をする前に頼んだから!」

「ふうん? じゃ、俺が食べていい?」

「えっ」

「だって梨央はダイエットするんだから食べないほうがいいもんね。残したらもったいないから俺が食べてあげるよ」

「……っ」


にやにや笑いながら、尚がこちらに手を伸ばしてくる。


「ほら、その皿こっちにちょうだい。食べてあげるから」


その手が触れるかどうかの一瞬で、私はさっとチョコレートケーキの皿を避難させた。


「あ……明日から! ダイエットは明日から!」


そう言った瞬間、尚がこらえきれないようにぷっと噴き出した。


「ほら、やっぱりそうなる。梨央にはダイエットなんて永遠に無理だって」

「ううう」

「大人しくその体脂肪率をキープするしかないよ」

「でも、だって……」


私は隣の席の美男美女カップルに目を向けた。

彼女のほうはモデルみたいな抜群のスタイルに、女優みたいな綺麗なメイク。

それにひきかえ、私は……。


ガラスに映った自分の姿を見て、はああ、とため息が出てしまう。

なんて情けない姿。何とかしなければ。


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