毒、ときどき蜜
たふたふっ、と尚の手が私の顎を揉んだ。


「別に痩せなくてもいいじゃん。ここ、さわり心地いいし」

「……ちょっ、と、なに……」


動揺していると、今度は視界がグレーに染まる。

尚が着ているセーターの色だ。


私は尚にふんわりと抱きしめられていた。

びっくりしすぎて、息も動きも止まってしまう。


くくっ、と尚が笑うと、私の耳が押しつけられている彼の鎖骨のあたりが小さく揺れた。


私は反射的に周囲に目を走らせて、誰にも見られていないことを確認する。

ひと気のない道で良かった。

というか、もしかして尚はわざわざこの脇道に入ったんだろうか。


そんなことを考えていると、尚が、ぎゅっ、と私の身体を確かめるように腕の力を強めた。


「梨央はこのままでいいよ」


耳許で囁かれると、どきりと胸が鳴った。


「全身ふよふよしてて、抱き心地もいいし」

「……は、」


なに言ってんの、と続けようとすると、尚が遮るようににやりと笑う。


「美味そうだなあ、食べていい?」

「………っ?」


答える前に、かりっ、と頬っぺたをかじられた。


「………ひゃああっ」


思わず声をあげると、尚はこらえかねたように噴き出して、あははと笑った。

私は足に力が入らなくなって、ずるずるとビル壁に背をあずける。


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