幼なじみクライシス
「乾杯~!!」

週末のカジュアルイタリアンの店は適度にスペースをもたせてテーブル配置してあるためか、人の多さの割に不快なほどの喧騒ではなかった。

向かいには髪を巻き、ピアスを揺らしながらいやらしくない程度にボディラインや胸をアピールした服をまとう女たちが4人並んでいた。みんな同じような顔で区別がつかない。

おれは結局北村の主催する合コンへ参加していた。
明らかに現実逃避なのは分かっていたが、千尋のことも自分のしたことや自分の気持ちも直視したくなかった。
1人で家に帰れば考えずにはいられない。

「ねえ、唇切れてるけど」

向かいの女が上目使いに自分の唇に触れる。どうすれば男の気持ちを掴めるのかを理解していて、自分にはそれができるという自信がある。

「そんな顔でこんなところに来るなんて悪い男ね」
「こんなところに来る男なんてみんな同じだ」

お前みたいな女も。

「あなたもしかしてクウォーター?」
「どうして」
「瞳の色がちょっと日本人ぽくないわ」
「そういうアンタも色が薄い」
「ふふ、分かった?祖母がフランス人なの」

白人譲りの白くて長い指に映える真っ赤なネイル。

その赤が唇のリップと同じ色だと気付いたのは店を出てすぐ、人目を盗んだ女が強引に腕を引っ張ってキスを交わした瞬間だった。

「今時の大学生ってこんないいとこに住んでるのね~」
「中は広くない。周りに見られたくないから早く入って」
「そういうのストレートに言うってどうかと思うわよ」

アパートの部屋の前で問答しているとふと気配を感じた。一度ドアを閉めて3つ同じ部屋が並ぶ廊下を確認するが誰もいない。

「…気のせいか」

そのまま部屋に上がり鍵を閉めた。





「バカにするのもいい加減にして」

脱ぎ去った服を手早く身に着けると女はすぐに部屋を出て行った。あてつけのようにドアが強く閉められる。

取り残された自室には時計の秒針の音だけがいやに響く。

1日で2回もビンタくらうってなんだよ。

手に入らないからって自分勝手に千尋を傷付けて。
現実逃避に抱こうとした女のプライドすら傷付けて。

おれってこんなにバカだったのか。

「くそ…っ」

力任せに床を殴るも痛くも痒くもない。

情けなさ過ぎて涙も出なかった。




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