次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「応えたいじゃなくて、応えなければいけないの。屋敷にいる子どもたち‥‥アナは私とそう年も変わらないのに私の世話係という仕事をしてるし、厩番の息子のユゼも働いてる。私の仕事はなんだろうってずっと考えてたの」
「それがいい子でいることか?」
「うん。みんなが嘘をつかなくていいように、さすがロベルト家の娘だって本心から言ってもらえるようになる。それが私の仕事だと思うの」
曇りのない瞳で、プリシラはまっすぐに前を見据えていた。
彼女はディルが思っているより、ずっと大人だった。周囲の期待も嫉妬も、すべてを受け止める。それがどんなに重かろうと、この小さな肩に背負って生きていく覚悟ができているのだ。
「王妃の器……ね。まぁ、たしかに」
彼女の頭上に王妃の宝冠が見えたような気がして、ディルはふっと微笑んだ。
このときの言葉通り、プリシラは完璧な公爵令嬢になるべく邁進した。優雅な笑みを浮かべながら、足元では血がにじむような努力を続けた。その結果、噂に違わぬ才色兼備のレディへと成長したのだ。
ほとんどの人間は知らない。彼女が生れながらに持っていたものは家柄だけだということを。それ以外のものは、最低限の睡眠時間すら犠牲にしてようやく手に入れたものだった。必死の努力は才能を凌駕することもあるということを、ディルはプリシラから教わった。残念ながら、料理だけは努力じゃどうにもならなかったようだが……。
「そんなに馬鹿真面目に生きてて、疲れないか?」
いつだったか、そう聞いたことがある。プリシラはくすくすと笑いながら答えた。
「疲れるけど、それでいいの。だって、他の人より上等な服を着て高価な食事をさせてもらってるから。一番疲れなきゃダメなのよ」
「いい子ぶりっ子‥‥けど、そこまで貫くなら立派かもな」
「ふふ。ありがとう」
プリシラと関わるなかで、ディルも変わっていった。フレッドやプリシラのように、上に立つ者の責務なんてものに目覚めたわけではない。そんな重苦しいものはやっぱり苦手だが‥‥プリシラに、好きな女に恥ずかしくない人間でありたいとは考えるようになった。
いつ死んでも構わない。なんならその日は早い方がいい。そう思っていたのに、彼女の笑顔が見られる間は生きていてもいいかなと思うようになった。
ディルの人生はプリシラに出会ったことで始まったのだ。彼女の存在がすべてだった。
「お前のいない未来なら、要らない」
「それがいい子でいることか?」
「うん。みんなが嘘をつかなくていいように、さすがロベルト家の娘だって本心から言ってもらえるようになる。それが私の仕事だと思うの」
曇りのない瞳で、プリシラはまっすぐに前を見据えていた。
彼女はディルが思っているより、ずっと大人だった。周囲の期待も嫉妬も、すべてを受け止める。それがどんなに重かろうと、この小さな肩に背負って生きていく覚悟ができているのだ。
「王妃の器……ね。まぁ、たしかに」
彼女の頭上に王妃の宝冠が見えたような気がして、ディルはふっと微笑んだ。
このときの言葉通り、プリシラは完璧な公爵令嬢になるべく邁進した。優雅な笑みを浮かべながら、足元では血がにじむような努力を続けた。その結果、噂に違わぬ才色兼備のレディへと成長したのだ。
ほとんどの人間は知らない。彼女が生れながらに持っていたものは家柄だけだということを。それ以外のものは、最低限の睡眠時間すら犠牲にしてようやく手に入れたものだった。必死の努力は才能を凌駕することもあるということを、ディルはプリシラから教わった。残念ながら、料理だけは努力じゃどうにもならなかったようだが……。
「そんなに馬鹿真面目に生きてて、疲れないか?」
いつだったか、そう聞いたことがある。プリシラはくすくすと笑いながら答えた。
「疲れるけど、それでいいの。だって、他の人より上等な服を着て高価な食事をさせてもらってるから。一番疲れなきゃダメなのよ」
「いい子ぶりっ子‥‥けど、そこまで貫くなら立派かもな」
「ふふ。ありがとう」
プリシラと関わるなかで、ディルも変わっていった。フレッドやプリシラのように、上に立つ者の責務なんてものに目覚めたわけではない。そんな重苦しいものはやっぱり苦手だが‥‥プリシラに、好きな女に恥ずかしくない人間でありたいとは考えるようになった。
いつ死んでも構わない。なんならその日は早い方がいい。そう思っていたのに、彼女の笑顔が見られる間は生きていてもいいかなと思うようになった。
ディルの人生はプリシラに出会ったことで始まったのだ。彼女の存在がすべてだった。
「お前のいない未来なら、要らない」