次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
王太子宮の、無駄に広く装飾過多な応接間で、彼女は目を離せば消えていってしまいそうに小さくなっていた。顔には色がなく、疲れきっているのが遠目にも見てとれた。
以前会った時のいかにも賢そうな少女とは別人のようだ。
「名はリズと言ったな」
怖がらせないよう、ゆっくりと優しく、ディルなりに気をつかったつもりだったが、彼女は死刑宣告でも受けたかのようにびくりと大きく体を揺らした。
「あ、あ……」
恐怖のあまり言葉が出てこないのだろう。視線は宙をさまよっている。色々と聞きたいことはあるが、まずは彼女を落ち着かせることが必要だ。ディルは膝をつき、椅子に腰かけるリズと目線を合わせた。
「リズ。君の身の安全は保証する。君の幼い弟も保護した。王妃の手が届くことはないから安心してくれ」
「も、申し訳ありません。わた、殿下を……プリシラ様を……」
「俺もプリシラも生きている。君のせいでどうにかなったわけじゃない。罪に問うことも罰を与えることもしない。そんなことしたら、プリシラに怒られるからな」
リズの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。嗚咽の合間に申し訳ありませんと、それだけを繰り返す彼女を辛抱強く待ち続けた。
初めて会った時、彼女はディルに対して異常なほどの怯えを見せた。それが王族への畏怖とは違うものだと、ディルは勘付いていた。
あのとき、彼女は良心の呵責に耐えかねていたのだろう。自分が見殺しにする相手の顔は、できれば見たくなかったはずだ。
「はい。プリシラ様は命まで奪うことはないと聞いていたので……けど、ディル殿下は……」
「まぁ、俺とフレッドは両方死ななきゃ意味ないからな」
「私、本当にとんでもないことに加担してしまって」
リズは震える唇で懸命に言葉を絞り出す。
彼女の話はおおむねディルとターナが予想していた通りだったが、犯行はルワンナ王妃個人の意思によるもので故国ソルボンは一切関わっていないらしい。
「私から見ても、短絡的というか……フレッド殿下やディル殿下が国王になったら自分の浪費を咎められるだろうから、それが嫌だと仰っていました。でも、ルワンナ王妃らしいといえばそうなのかも知れませんね」
リズはそう語った。プリシラも言っていたが、彼女は良くも悪くも何不自由なく育ったお姫様のままなのだろう。自分の利益がなによりも最優先されるべきと信じていて、疑問にも思わないのだ。
以前会った時のいかにも賢そうな少女とは別人のようだ。
「名はリズと言ったな」
怖がらせないよう、ゆっくりと優しく、ディルなりに気をつかったつもりだったが、彼女は死刑宣告でも受けたかのようにびくりと大きく体を揺らした。
「あ、あ……」
恐怖のあまり言葉が出てこないのだろう。視線は宙をさまよっている。色々と聞きたいことはあるが、まずは彼女を落ち着かせることが必要だ。ディルは膝をつき、椅子に腰かけるリズと目線を合わせた。
「リズ。君の身の安全は保証する。君の幼い弟も保護した。王妃の手が届くことはないから安心してくれ」
「も、申し訳ありません。わた、殿下を……プリシラ様を……」
「俺もプリシラも生きている。君のせいでどうにかなったわけじゃない。罪に問うことも罰を与えることもしない。そんなことしたら、プリシラに怒られるからな」
リズの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。嗚咽の合間に申し訳ありませんと、それだけを繰り返す彼女を辛抱強く待ち続けた。
初めて会った時、彼女はディルに対して異常なほどの怯えを見せた。それが王族への畏怖とは違うものだと、ディルは勘付いていた。
あのとき、彼女は良心の呵責に耐えかねていたのだろう。自分が見殺しにする相手の顔は、できれば見たくなかったはずだ。
「はい。プリシラ様は命まで奪うことはないと聞いていたので……けど、ディル殿下は……」
「まぁ、俺とフレッドは両方死ななきゃ意味ないからな」
「私、本当にとんでもないことに加担してしまって」
リズは震える唇で懸命に言葉を絞り出す。
彼女の話はおおむねディルとターナが予想していた通りだったが、犯行はルワンナ王妃個人の意思によるもので故国ソルボンは一切関わっていないらしい。
「私から見ても、短絡的というか……フレッド殿下やディル殿下が国王になったら自分の浪費を咎められるだろうから、それが嫌だと仰っていました。でも、ルワンナ王妃らしいといえばそうなのかも知れませんね」
リズはそう語った。プリシラも言っていたが、彼女は良くも悪くも何不自由なく育ったお姫様のままなのだろう。自分の利益がなによりも最優先されるべきと信じていて、疑問にも思わないのだ。