次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「もう気にしなくていい。君の家は元々ソルボン王家に縁があるようだし、弟を人質にされた状態でルワンナ王妃に逆らうことなど無理だ」
リズをプリシラの側に置いたのはルワンナ王妃だった。彼女を通じて、こちら側の動向を探りたかったのだろう。
「……違うんです。私、ルワンナ王妃に命じられたからってだけじゃない。ディル殿下もプリシラ様も、どうせ王妃と一緒だって。仕える人間の気持ちなんて考えてもくれない。綺麗なのはどうせ上辺だけだって……」
「だから、不幸になっても構わないって思ってた?だったら、なんでこの証拠の手紙を危険をおかしてまで持ち出してくれたんだ?」
ディルが彼女を呼び出すより先に、彼女の方から
ターナを通じてディルに話があると申し出があったのだ。
『フレッド殿下暗殺の犯人はロベルト公爵ではなく、ルワンナ王妃だ』と。その証拠となる手紙も持っていると。初めは王妃側の罠かと疑ったが、どうやらそうではなかったらしい。
「プリシラ様は傲慢なところのない優しい主でした。けど、ルワンナ王妃だって機嫌の良いときはすごく優しいんです。お気に入りの侍女には、自分のドレスや宝石を分け与えてくれることもあった。結局、私たちは主の気分に振り回されるばかりで……」
「俺は、ここにいるターナには世話をかけてばっかりだから君の言い分を否定はできないが……あいつは違ったんじゃないか?」
ターナが苦笑しているのを横目にしつつ、ディルは言った。プリシラは自分と使用人の子ども達との境遇の違いを幼いころから理解していた。恵まれている分だけ、負わなければならない責任についても。王家に生まれたディルよりもずっと真摯に向き合い続けてきたのだ。
リズは涙をぬぐって、力強くうなづいた。
「はい。私か間違えていました。あの方は王妃になるべき御方です。たとえ私や弟の命が犠牲になったとしても」
リズがそこまでの覚悟を決めたのには理由があった。
< 116 / 143 >

この作品をシェア

pagetop