次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「ほんの数日前のことです。王宮の掃除をする下働きの子がプリシラ様の衣装部屋から宝石を盗もうとする騒ぎがありました」
普段、衣装部屋に昼間立ち入ることはないのだが、その日はたまたまドレスの裾のほつれに気がついて、プリシラはリズをともなって衣装部屋をおとずれた。そこで彼女の犯行を目撃してしまった。ほんの出来心だったと、彼女は泣きながら謝罪した。病気の妹の薬代がどうしても足りないのだと。王宮勤めの人間はリズやターナのようにほとんどが貴族階級だが、厩番や清掃係、庭師などは平民で、彼女もそうだった。もらう給金はリズ達の三分の一程度だろう。

「プリシラ様がどんな反応をするのか……私、すごく意地悪な気持ちで見ていました。ルワンナ王妃ならきっと激怒して彼女に厳しい罰を与えるでしょう。プリシラ様も同じようにするのか、それとも彼女に同情してこっそりと宝石をあげてしまうかなって」
「たしかに意地悪だが……君はなかなか賢いな」
ディルは苦笑しながら言った。リズはわかっているのだ。後者を選ぶことは一見優しいように見えるが、結局はルワンナ王妃と同じなのだ。その瞬間の感情に流され、ルールを無視することになる。それはリズの嫌う、気分で下の人間を振り回す主そのものだ。
「それで?プリシラはなんと言った?」

※※※
プリシラは冷たい床に座りこんだまま泣きじゃくる彼女に歩み寄ると、自分もかがみこんで彼女と目線を合わせた。ゆっくりと、優しく語りかける。
「これをあなたにプレゼントすることは簡単だわ。たくさん持ってるし、ひとつくらい無くなっても困らないのよ。でもね、それだとあなたの妹しか救えない。私はもっと多くの人を助けてあげないといけないの」
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