次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
手紙を読み終えたプリシラの胸中は複雑だった。
手紙は王都警備隊から届いたものだ。いかにも彼ららしい事務的な文体で、事実だけが淡々と綴られている。ロベルト公爵の容疑は晴れ、釈放されたこと。真犯人はルワンナ王妃で証拠もあがっていること。プリシラはすぐにでも王宮に戻れること。
ここまでは素直に嬉しかった。迎えの馬車など待たずに、一刻も早く王宮に戻りたいくらいだ。
けれど、最後の一文がプリシラの心を曇らせた。
『実行犯と思われるロベルト公爵側近のナイードが逃亡、王太子殿下の指揮の元、鋭意捜索中である』
ナイードの蛇のような瞳を思い出すだけで、ぞくりと背筋が震える。底しれぬ不安がじわりじわりと胸に広がっていく。嫌な予感がする。
手紙より二日ほど遅れて、迎えの馬車がリノ離宮に到着した。王都警備隊を代表してやってきたのは、あのイザークだった。
「なんだ?なにか様子が……」
イザークは離宮の門扉が遠目に見えた瞬間に異変を察した。そこにいるはずの門番の姿が見えないのだ。こういった任務を請け負う流れ者の傭兵たちのサボり癖は嫌というほど知っていた。今回ばかりはそうであって欲しいとも思う。だが、軍人として勘が告げている。この静けさは違う。なにか不穏なことが起きたのだ。
イザークは馬を急がせた。開け放たれていた門扉の影には空の酒瓶と門番たちが転がっていた。彼らはみな口から泡を吹き、絶命している。やけに甘ったるい匂いが鼻についた。
「シガの毒か……くそっ」
シガは猛毒で、一滴でも口にすれば全身に毒が回り決して助からない。おまけに息絶えるまでにひどく苦しむことから、悪魔の薬と言われていた。門番など眠らせておけば済むところをわざわざ殺したのだ。犯人の非道さがよくわかる。イザークは両の拳を、怒りにまかせて強く握りしめた。
手紙は王都警備隊から届いたものだ。いかにも彼ららしい事務的な文体で、事実だけが淡々と綴られている。ロベルト公爵の容疑は晴れ、釈放されたこと。真犯人はルワンナ王妃で証拠もあがっていること。プリシラはすぐにでも王宮に戻れること。
ここまでは素直に嬉しかった。迎えの馬車など待たずに、一刻も早く王宮に戻りたいくらいだ。
けれど、最後の一文がプリシラの心を曇らせた。
『実行犯と思われるロベルト公爵側近のナイードが逃亡、王太子殿下の指揮の元、鋭意捜索中である』
ナイードの蛇のような瞳を思い出すだけで、ぞくりと背筋が震える。底しれぬ不安がじわりじわりと胸に広がっていく。嫌な予感がする。
手紙より二日ほど遅れて、迎えの馬車がリノ離宮に到着した。王都警備隊を代表してやってきたのは、あのイザークだった。
「なんだ?なにか様子が……」
イザークは離宮の門扉が遠目に見えた瞬間に異変を察した。そこにいるはずの門番の姿が見えないのだ。こういった任務を請け負う流れ者の傭兵たちのサボり癖は嫌というほど知っていた。今回ばかりはそうであって欲しいとも思う。だが、軍人として勘が告げている。この静けさは違う。なにか不穏なことが起きたのだ。
イザークは馬を急がせた。開け放たれていた門扉の影には空の酒瓶と門番たちが転がっていた。彼らはみな口から泡を吹き、絶命している。やけに甘ったるい匂いが鼻についた。
「シガの毒か……くそっ」
シガは猛毒で、一滴でも口にすれば全身に毒が回り決して助からない。おまけに息絶えるまでにひどく苦しむことから、悪魔の薬と言われていた。門番など眠らせておけば済むところをわざわざ殺したのだ。犯人の非道さがよくわかる。イザークは両の拳を、怒りにまかせて強く握りしめた。