次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「うん。本物。なんだかんだ生き延びてて……色々と迷惑かけてすまないねぇ」
そう言って、あははと呑気な笑みを浮かべる。すまないと思っているようにはちっとも見えないが、フレッドのこの笑顔を前にしては、なにも言えなくなってしまう。
「もぅ……無事で、生きてて、よかったぁ」
聞きたいことは山ほどあるけれど、言いたいことはそれだけだった。
「いつまで生きていられるかは、わからないけどね」
フレッドは笑顔のままで、不吉なことをさらりと言ってのける。プリシラは改めて、周囲をぐるりと見回した。

冷たい石造りの床と壁、重そうな鉄格子の向こうには下へ向かう細い螺旋階段が見える。小さな天窓から光が注いでいるから、いまは昼なのだろう。狭い部屋だが天井は高く、空気の淀みはない。

そして、自分の状況。両手は後ろ手に縛られていて、自由はない。足は片側のみが短いロープで部屋の隅の柱に繋がれている。犬や馬と同じ扱いだが、囚われの身としてはいい方なのだろうか。よくわからない。
口は封じられていない。ということは、どんなに叫んだところで、助けのこない場所なのだろう。
フレッドもプリシラと同様に手足を拘束され、自由を奪われている。

「ーーここは?」
少しかすれてはいたが、しっかりと声が出たことにプリシラは安堵した。
「場所はよくわからないが、国外には出ていないと思う。建物はずいぶんとクラシックだから……古い時代の物見の塔かなにかかな?」
貴人を捕えておくのに塔を利用するのは、ミレイア王国の伝統のようなものだ。ここのように、鉄格子の部屋がついているのは珍しくない。プリシラの父もつい先日まで、同じようなところに閉じ込められていた。
「まぁ、たしかに地下牢よりは快適だよね。人間は陽にあたらないと気分が沈むから」
「……フレッドは地下でも全然、変わらなそうだけど」
プリシラの嫌味もフレッドは笑って流してしまう。
「ははっ。それにしても、少し見ない間にプリシラはずいぶんと色っぽくなったねぇ。あの奥手の弟も、少しは頑張ったってことかな?」
フレッドはプリシラをまじまじと見つめながら、言った。
「なっ……」
「プレイボーイぶってるけど、正体は片思いをこじらせまくった純情青年だからね、ディルは」
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