次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「そ、そんなことより!これまでなにがあったのかと、いまの状況を説明してくださいっ」
「照れることないじゃないか!僕のむさくるしい軟禁生活の話より、君らの初々しい恋物語の方がずっと楽しいのに」
「フレッド!いい加減にしてちょうだい」
「あぁ、わかった、わかった。ちゃんと話すよ。ほら、怒るとせっかくの美貌が台無しだ」
プリシラの眉間にくっきりと浮いたシワを、フレッドは見逃さなかった。
プリシラ口をへの字にして、押し黙る。結局、フレッドは自分をからかいたいだけなのだ。動揺したり怒ったりしても、彼の思うツボだ。

(大体、私とディルになにかあったかも……なんて、軟禁されてたはずのフレッドがどうして知ってるのよ)

「ふふ。君らの気持ちなんて、とっくの昔からお見通しさ!まぁ、いいや。楽しい恋の話は面倒事がすべて片付いてからにしよう」
ようやく真面目な話をするつもりになったらしい。フレッドはすっと表情を変えた。聡明で優美な、いつも王宮で見せていた彼の顔だ。

「なにから話したらいいのかな?まぁ、確実に言えることは、今回のことは僕の責任だ。迷惑をかけて本当に申し訳なかったね」
「……なにがあったの?失踪はフレッドの意思だったの?」
フレッドは力なく笑って、「そうだ」と短く答えた。
「どうして?フレッドより王位にふさわしい人はいないのに。ミレイア王国に一番必要な人よ」
「うん、僕はミレイア王国を愛してる。美しいアドリア海も、金色に輝く小麦畑も、勤勉な国民も、君やディルのことも……」
「だったら、どうして?」
フレッドの気持ちがちっともわからない。彼が出ていく理由が、どこにあったというのだろう。
「愛してるからこそ、裏切り続けるのが辛かったんだ」
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