次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
美貌、知性、教養、王妃に必要とされるものは数え切れぬほどある。けれど、最も重要な役割は血を残すことだ。どんなに美しく、賢くても、子を身籠らなければ、王宮では肩身の狭い思いをすることになる。最悪の場合、離縁に追い込まれることだってあるのだ。
そう考えると、子どものいないルワンナ王妃も辛い立場だったであろう。あの浪費癖や今回の犯行も焦りや不安からくるものだったのかもしれない。

「ザワン公爵もさ、権力欲8割、娘可愛さ2割ってとこだったんじゃないかな。魔がさしたにしても、最低の愚策だと思うけどね」
「そうね。そんな嘘が露見したら、サーシャ王妃だけでなくザワン公爵家は破滅だわ」
「そうなってたら、今頃は君のお父さんの天下だったかもね」
フレッドは変わらずにこやかだが、プリシラは背筋が冷えるのを感じた。やはり王宮は、政治とは恐ろしいものだ。みな、笑顔の裏に様々な思惑を隠している。キラキラと華やかに見えても、水面下にはドロドロとした欲望がうずまいているのだ。栄華を極める者と没落していく者の差は、ほんのわずかなことだ。
「やるからには徹底的に。嘘も百年つき通せば、真実になる。祖父はそう考えたみたいだ。そんな祖父にとって、僕以外の男子の誕生は脅威だった」
フレッドは母親似だった。当たり前だが、陛下にはまったく似ていない。もし、産まれてきた男子が陛下によく似ていたら?陛下の関心はそちらに向いてしまうのではないか?

ーーそれはなんとしても阻止しなけなければ。王太子は長男であるフレッドだ。

ザワン公爵はそう考えたのだろう。

「祖父にとっては幸いなことに、身籠った陛下の愛人は身分の低い娘だった。この国は母親の血統も重要視する。彼が僕に取って代わることなどありえない。……にも関わらず、それでも不安だったんだろうね」
フレッドは祖父を憐れむように苦笑した。
「ま、まさか……ディルのあの噂は……」
「うん、ザワン公爵が仕組んだことだよ。陛下は歳を重ねて信心深くなっていた。それをうまく利用したんだ。ただ、王都の大火は……予定外だった。ボヤ程度で済ませるはずが、思ったより火が回ってしまったらしい」
プリシラは絶句した。
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