次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「ーー驚いた?」
フレッドのその言葉も、頭の中で形にならず、ただの音声として流れていくばかりだ。
明かされた真実が重すぎて、処理が追いつかない。

(王都の民にもたくさん被害が出たというあの火事が人為的なものだった?なんて、馬鹿なことをーー。それに、ディルの呪いもすべて嘘だったなんて。ディルはあんなに苦しんでいたのに)

父の政敵ではあるが、ザワン公爵は嫌いではなかった。冷静で理知的、経験豊富な政治家。こんな馬鹿げた保身に走る人物だとは、思っていなかった。
「……ま、待って。フレッドはいつから?ずっと知っていたの?」
「母が亡くなる間際に。もう喋ることもできなかったから手紙をもらったんだ。母は頑張ったと思うよ。僕を守るために、重すぎる罪から目を背けて生きてきた。けど、最後に懺悔したくなったんだろうね」
サーシャ王妃が亡くなったのは六年前だったろうか。フレッドはそんなにも長い間、この秘密を抱え苦しんできたのか。
「わ、私、なにも知らずに。気づかずに……ごめんなさい」

フレッドは目を伏せ、ゆるゆると首を振った。
「実はね、そんなにショックでもなかったんだよ。ディルのあの黒髪は陛下譲りだけど、僕は本当に陛下には似ていなかったしね。どこかで、やっぱりなと思ったんだ」
そう言われてみれば、ディルと陛下はよく似ている。髪色だけでなく、どこか近寄りがたいような独特な佇まいも。

それから、フレッドはこの六年間なにを考えてきたのかを明かしてくれた。

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