次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「正直言うとさ、ディルが無能なら、あのままずっと黙っとこうかとも思ったんだ。僕の抱える秘密は国にとって爆弾だけど、ディルが王位を継ぐことがそれ以上の地雷になっちゃうならね」
「けど、法では男系継承が定められていて……」
生真面目なプリシラの反論を、フレッドはあっけらかんと一蹴する。
「血統も伝統も大切だけど、それで国が滅んだら意味ないじゃないか。間違えちゃいけない。一番に守るべきは国民と国土だ」
「……ディルも同じようなこと言ってたわ。血はそんなに重要じゃないって」
本当にそうかもしれない。だって、血は繋がらなくともフレッドとディルはこんなにも似ている。同じように物事を見て、同じように考える。
先程、フレッドは陛下とは似ていないと言った。外見はそうかもしれない。だが、確実に受け継いだものはあるはずだ。

「そこなんだよ!悔しい限りだけど、ディルは無能じゃない。王の資質をちゃんと持ってる。……となると、爆弾を抱えた僕よりディルが王位にふさわしい。何度考えても、この結論になるんだよなぁ」
口では悔しいと言ったが、フレッドはどこか誇らしげな顔をしている。

「フレッドは、王位にふさわしいわ。この国の誰よりも……」
そんな台詞が気休めにもならないことは、承知している。それでも知っていて欲しかった。プリシラも、ディルも、ターナも、国民も、それから国王陛下も、次の王はフレッドだと信じていた。彼の失踪など、だれも望んではいなかった。

「いや、やっぱりディルがふさわしいよ。ディルは君を深く愛してる。多分、君の為なら迷いもなく命を捨てる。僕は……大切なものの為に、命を捨てる勇気はなかった」
「まさかフレッド、あなた……」
その先を言葉にすることは、恐ろしくて出来なかった。


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